【あらすじ・感想・レビュー】『同志少女よ、敵を撃て』2022年本屋大賞作品!

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『同志少女よ、敵を撃て』は、逢坂冬馬(あいさかとうま)さんのデビュー作でありながら、その高い完成度で評価されている作品です。

  • 2022年本屋大賞【大賞受賞】
  • 第11回アガサ・クリスティー賞【大賞受賞】
  • 第166回直木賞【候補】

本作は、ロシア(旧ソ連)に実在した女性狙撃手、リュドミラ・パブリチェンコの生涯を基にして書かれた戦争小説です。

ゆめ

史実を元にしたフィクションですね。

狙撃兵として戦争に参加した少女の感情の機微が豊かに描かれた作品であり、

アガサクリスティー賞を受賞するに相応しい、清々しい伏線の回収や、息を呑む緊迫した状況展開などは圧巻です。

本作を長い月日を費やして完成させた数ヶ月後に、なんとロシアがウクライナに侵攻をする事態がおき、現代を生きる上でも今だからこそ読むべき作品となりました。

ゆめ

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逢坂冬馬の小説『同志少女よ、敵を撃て』あらすじ

ロシアの小さな村に生まれ育った少女セラフィマ。

しかし、突然ドイツ兵によって母を含め村人を皆殺しにされてしまう。

そこで現れた恐ろしく美しいロシア人女性イリーナに、母の遺体を焼かれ「戦いたいか、死にたいか」と問われる。

セラフィマは、母を撃ったドイツ兵と母の遺体を焼いたイリーナに復讐することを心に決め、イリーナが教官を勤める女性狙撃学校で厳しい訓練を受ける。

女性狙撃隊の一員となったセラフィマは、狙撃兵として独ソ戦を生き抜いてゆく…。

逢坂冬馬の小説『同志少女よ、敵を撃て』感想

とにかく読みやすい

「戦争小説」というと気乗りする人はあまり多くないのでしょうか。

やはり題材が題材なだけあって、重くて、暗くて、辛くて、苦しい。

有名どころでは井伏鱒二の『黒い雨』やアンネフランクの『アンネの日記』など、なかなか腰が上がらない本も多いでしょう。

しかしこの作品は、正直かなり読みやすいです。

背景は第二次世界大戦時のロシアと、現代日本を生きる私たちからしてみると、全く想像できないものです。

しかし時代物を扱った本でよく見られる、「難しい言葉遣い」や「当時の用語」、「その国特有の文化や言葉がわからないと完全には理解できない」といったハンデが全くありません。

現代の言葉遣いでわかりやすく書いてあり、少なくとも私は一度も理解できなくて引っかかることはありませんでした。

それどころか、どんどん引き込まれており休むまもなく一気に読んでしまいました。

本書は、そんな”読みやすい”作品なのです。

「読みにくい」「気が進まない」「とっつきにくい」そんな戦争小説こそ、読みやすさは大切です。

ミステリを読むようにスイスイ読み進めることができます。

シスターフッドに胸を打たれる

この作品は、シスターフッドを描く作品です。

シスターフッドというのは、女性同士の絆です。

主人公の少女セラフィマ、そして狙撃学校の個性豊かな仲間達、教官のイリーナ、そして伝説の女性狙撃手であるリュドミラ・パブリチェンコ。

彼女たちの戦場という特殊な場所で作り上げられる歪な友情や愛が、魅力的に描かれています。

そしてアナと雪の女王のように、女性たちの絆に終始します。

そもそも女性目線で描かれた戦争の話は少なく、あったとしても男性によって描かれた全く的を得ていないものであるということは多々あります。

しかし本書は男性作家でありながら、かなり細かく女性の心の機微やシスターフッドを繊細に描いており、脱帽しました。

この作品は、500人以上の従軍女性を取材し、その内容から出版を拒否され続けた、ノーベル文学賞受賞作品『戦争は女の顔をしていない』をかなり読み込んで書かれたとのことで、納得しました。

ソ連では第二次世界大戦で100万人をこえる女性が従軍し,看護婦や軍医としてのみならず兵士として武器を手にして戦った.しかし戦後は世間から白い目で見られ,みずからの戦争体験をひた隠しにしなければならなかった――.500人以上のソ連の従軍女性から聞き取りをおこない戦争の真実を明らかにした。

こちらの本は、Audibleで聴き放題対象なので、興味がある方はぜひ聴いてみてください。

著:スヴェトラーナ アレクシエーヴィチ, 翻訳:三浦 みどり

無の境地

主人公セラフィマが、ある作戦で出会った若い少年が「頂上(狙撃を極めた)の景色はどんなものなのか知りたい。」という場面があります。

この問いをセラフィマは、300人を撃ったという伝説の女性狙撃手リュドミラ・パブリチェンコにぶつけます。

それは、無の境地。

なんの雑念もなく、ただ撃つ。

怒りでも憎悪でもなく、撃つということをするだけなのです。

無の境地なのでした。

どうして狙撃手になったのかという問いについては、

「ただ撃つことが得意だった、それだけ」という答え。

意味づけがないことがわかります。

「撃つ=人を殺す」ではなく、「撃つ=撃つ」なのでした。

さらに作品中の象徴的なシーンして、「緊張感漂う戦況の中、敵の銃口がこちらに向いた時、突然音が全て消え、セラフィマがロシア動揺を口ずさむシーン」があります。

意識が現実から離れ、どこか別の場所から戦場にいる自分を見ているような気分でゲームでもするように敵を撃つ。

極限状態となった精神は、現実から乖離する。

スポーツなどで「ゾーン状態」という言葉を耳にすることがありますが、一種のゾーン状態なのであろうと推測します。

このような「集中力が研ぎ澄まされ、意識が現実から離れるような感覚」は、スポーツや勉強、仕事などの場面で実力を引き出す為に活用できるのであれば良いですが、

戦争のような場面で起こってしまうのは悲しいことですね。

逢坂冬馬の小説『同志少女よ、敵を撃て』まとめ

第11回アガサ・クリスティー賞で、史上初、選考委員全員が5点満点をつけ、2022年本屋大賞を受賞した『同志少女よ、敵を撃て』。

女性目線の戦争を知れる、そして現在の情勢とも関連する本作は、今こそ読んでほしい小説です。

また、2022年の本屋大賞はかなり激戦でどの作品も名作でしたので、ぜひ他の本も見てみてください。

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